那覇地方裁判所 平成9年(行ウ)13号 判決 1998年5月13日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告がなした、平成九年七月一日付け航空法第一二七条外国航空機の国内使用許可申請に対する却下処分を取り消す。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二事案の概要
本件は、原告の航空法一二七条ただし書に基づく、外国航空機の国内使用許可申請を、被告が却下したことにつき、原告が右却下処分の取消しを求めた事案である。
一 争いのない事実等(証拠上明らかに認められる事実も含む。)
1 当事者
原告は、園芸植物の栽培及び輸出入並びに販売、外国航空機を利用しての国内外への農産物の輸送業等を目的とする株式会社である。
被告は、外国航空機の国内使用許可についての処分庁である。
2 本件申請
原告は、平成九年七月一日付けで、原告が沖縄県内で購入した菊の花及び農作物を原告が借り受けたロシア国際航空の航空機及び乗員を使用して東京、大阪、名古屋等の本土間で輸送するとして、航空法一二七条ただし書に基づく外国航空機の国内使用許可申請書を被告に提出した。
3 本件却下処分
被告は、本件申清について、同年一一月七日付けで、航空法一二七条ただし書に基づく外国航空機の国内使用許可申請は運航主体が行うべきであるところ、原告は荷主に過ぎず、運航主体でないから申請を行う適格要件を有していないとの理由で、却下した。
二 原告の主張
1 航空機の運航主体は、当該航空機の所有権を有することを要しない。他人の所有する航空機及び乗員を一体として借り受けた場合(いわゆる「ウエットリース」)でも、その航空機を自己の管理の下に置き運航させる場合は、運航主体に該当する。原告は、既に被告の許可を受けて我が国に乗り入れているロシア航空機と同型の航空機及び有資格の乗員をウエットリースすることとして本件申請を行ったものであり、本件申請の適格要件を有している。
なお、被告は、本件却下処分の理由の中で、別途航空法一三〇条の申請も必要とする。しかし、本件申請は、日本国民である原告が外国航空機をウエットリースして自己の所有物である菊の花を日本国内で無償で運送するものであり、有償の外国人国内航空運送を対象とする同条を適用する余地はない。
2 よって、原告は、被告に対し、本件処分の取消しを求める。
三 被告の主張
1 外国航空機国内使用許可の申請権者
航空法一二七条ただし書に基づく運輸大臣の許可の申請は、外国航空機を本邦内の各地間において航空の用に供する者、すなわち当該外国航空機の運航主体が行うべきものである。ここでいう運航主体とは、航空機の航行の安全を図るという航空法の立法趣旨(法一条参照)にかんがみ、航空機等の機材の管理権及び機長等の乗員に対する運航に関わる指揮命令権を有し、当該機材の整備、乗員の訓練その他機材及び乗員に関する安全確保の義務を負う者である。なぜなら、航空法は、右立法趣旨を実現するため、航空機の航行に関して航空機の使用者、すなわち運航主体を規制の対象にして、その者に、当該航空機に関わる耐空証明や乗組員の資格証明書等を備え付ける等の航行の安全義務を課しているからである(同法二章、三章、四章、六章等参照)。したがって、単なる旅客や荷主等は航空機の利用者にすぎず、これらの者は航空法でいう航空機の使用者すなわち運航主体ではない。
本件申請によれば、原告は本件申請に関わる計画に関し、第三者賠償保険を付保するとしているのみであり、右に述べた義務等についてはロシア国際航空に委ねるとするものである。そうであれば、本件外国航空機の国内使用許可申請の運航主体は、ロシア国際航空であって、原告ではないことが明らかであり、原告は単なる荷主に過ぎず、航空法一二七条ただし書に基づく運輸大臣の許可の前提を欠くことになる。
2 ウエットリース契約
原告の本件申請に係る契約をいわゆるウエットリース契約ということはできないし、同時に原告を運航主体ということもできない。運輸省航空局長は、昭和六二年四月一五日付け空事第一三五号をもって、「我が国航空運送事業者(定期及び不定期航空運送事業者)によるウエットリースの導入について」との表題で通達を発したところ、右通達において、航空運送事業者が航空機材、乗員の効率的な運用を目的として他社から機材及び乗員を借り受ける場合は、機材の管理権や乗員に対する指揮命令権、機材の整備、安全の確保について、これを借り受けて運航する者が航空法上の責任を負うことを定め、リース契約に関わる者の責任関係を明確にしている。
本件申請によれば、航空機等の機材の管理権及び機長等の乗員に対する運航に関わる指揮命令権、当該機材の整備、乗員の訓練その他機材及び乗員に関する安全確保の義務等について、そのすべてをロシア国際航空に委ねるとするものであるから、右契約は荷主である原告とロシア国際航空との間の「貸切契約」にすぎず、これをウエットリース契約と解することはできないし、また、右契約に係る航空機の運航の主体が原告であるということもできない。
3 よって、本件却下処分は適法である。
四 争点
本件申請において原告が外国航空機の使用許可を求めうる地位にあるか。
第三争点に対する判断
一 航空法一二七条は、領空に対する国家の支配権の作用の発現として、本邦内の各地間において外国航空機を航空の用に供することを原則として禁止し、運輸大臣の許可がある場合に限り国内使用を認めている。
航空法は、航空機の安全航行を図るため(航空法一条)に航空機を運航する者を対象として航空機の耐空証明(同法三章)、航空従事者の各種資格証明(同法四章)等の安全確保のため義務を課した上で、その実効を確保するため運輸大臣の報告徴収権及び立入調査権(同法一三四条)、証明の効力の停止(同法一四条の二)、取消し(同法三〇条)、罰則(同法一〇章)等の規定を設けている。これらの規定は、法一二七条ただし書の許可により、外国航空機が国内使用される場合にも適用されるものである。したがって、外国航空機の国内使用許可申請は、外国航空機、装備及び乗員等について管理権を有し、これを運航させる者、すなわち運航主体が行わなければならないことは明らかである。
二 本件申請は、原告がロシア国際航空に所属する航空機、機長及び乗組員を用いて、那覇から東京、大阪及び名古屋への菊の花等の輸送を目的として外国航空機の国内使用を求めたものであり、本件申請書には、ロシア政府発行のものと思われる右航空機の耐空証明書、乗員の技能証明書及び身体検査証明書が添附されている(<証拠略>)。しかしながら、右航空機の整備点検はロシア国際航空か行うものとされていること(<証拠略>)、乗員に対する指揮監督等前項で挙げた安全確保のための義務の履行は専らロシア国際航空に委ねられていること(<証拠略>)が認められる。
右認定事実によれば、本件申請において、外国航空機等について管理権を有し、これを運航させる運航主体はロシア国際航空であるというべきである。
原告は、運航主体は当該航空機の所有権を有することを要せず、ロシア国際航空との間にいわゆるウエットリース契約を締結したことにより、外国航空機の使用許可を求めうる地位にある旨主張する。しかし、既に述べたとおり、原告のように、単に外国航空機等を借り受けたに過ぎない者は、運航主体には該当しないものというべきである。
その他、原告の主張は独自の見解であって、採用できない。
三 よって、その余の点につき判断するまでもなく、
本件申請につき、申請者である原告が運航主体でないとして申請を却下した本件処分は適法であって、原告の請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 喜如嘉貢 齊藤啓昭 古河謙一)